今注目されるサルコペニアとは?

2022.11.01

これまで、筋肉が衰えることは加齢による自然な現象であると考えられていました。しかし近年では、これは加齢だけでなく、低栄養や身体不活動、また各種疾患なども原因となって引き起こされることが明らかになってきています。 この筋肉が衰える現象は「サルコペニア」と呼ばれ、健康寿命延伸のために対策が必要なものとして、注目されています。

サルコペニアとは

サルコペニア(Sarcopenia)は「加齢による骨格筋量および筋力の低下」と定義されています*1-3)。
一言でいえば「筋肉が衰える現象」であり、骨格筋量の減少や、筋内脂肪の増加などの質の変化が生じ、日常生活を送るのに十分な筋力を発揮できなくなってしまう状態を指します。

サルコペニア対策の意義

高齢者では「肥満」よりも「サルコペニア」が寿命に大きな影響を与える可能性があります。
Sanadaら*4)は、71~93歳の日系米国人男性約2,300名を1991年から24年間にわたって追跡し、「サルコペニアと肥満ならびにサルコペニア肥満の死亡リスク」を調査しました。対象者を「標準体重」「肥満」「サルコペニア」「肥満かつサルコペニア」の4つのグループに分けて検討を行ったところ、想定に反して平均寿命が最も短かったのは「サルコペニア」のグループであり、「標準体重」と「肥満」のグループ間には、ほとんど差はみられませんでした。
この結果は、高齢期にはメタボリックシンドローム予防一辺倒に陥らず、筋肉づくりを中心としたフレイルとサルコペニアの予防に焦点を当てることの重要性を示唆しています。

サルコペニアは、加齢以外に明らかな原因がない原発性サルコペニアと、活動量の低下、低栄養および疾患(インスリン抵抗性や糖尿病、内分泌疾患、心疾患・腎疾患・肝疾患などの臓器不全、炎症性疾患、悪性腫瘍)が原因となる二次性サルコペニアに分けられますが、多くの場合は複数の要因によって引き起こされます*3)。またサルコペニアの存在は、糖尿病*5)、心疾患*6)、腎疾患*7)、肝疾患*8)、呼吸器疾*患9)などの発症リスクや悪化、骨折リスクの増大*10)、手術後の予後不良*11)や要介護*12)にも繋がることが明らかになっています。

サルコペニアの評価方法

日本では、2019年にAsian Working Group for Sarcopeniaより発表された診断基準(AWGS2019)の利用が推奨されています*13)。サルコペニアと確定診断するためには、筋肉量を測定する必要があり、二重エネルギーX線吸収法(Dual-energy X-ray Absorptiometry: DXA)または、生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis: BIA)を用いて計測します。

サルコペニアの予防と改善

サルコペニアの発症予防と改善のためには、特に「運動」と「栄養」が重要であり、これらを組み合わせることで、効果的に筋力や筋肉の質を向上させられることが報告されています*14)。

ただし、不活動が原因であるにもかかわらず、栄養管理のみを実施することは適策ではないように、個々の主因を分析し、個々に即した対策を行うことが大切です。

運動処方*15)

最も推奨される方法は、膝伸展運動やスクワットなどのレジスタンストレーニングです。これによって、日常生活における各種動作の負担度軽減や心身両面の生活の質(QOL)向上に好影響をもたらすことが確認されており、サルコペニアの予防と改善が期待できます。
 

一般的には最大挙上重量(1RM)の60~70%以上の負荷が推奨されていますが、近年では低強度(1RMの30~40%)であっても、疲労困憊まで繰り返すことで、同等の筋肥大効果を得られることが確認されています。また、サルコペニアの原因の一つとして知られるインスリン抵抗性の改善のためには、有酸素性運動や日常の身体活動量の増加も重要です。

栄養改善

日本のサルコペニア診療ガイドライン*16)では、たんぱく質(アミノ酸)の摂取を中心とした栄養介入が推奨されており、また一日の摂取量の目安としては、体重1 kgあたり1.0 g以上と、サルコペニアの予防と改善には十分な量のたんぱく質を摂取する必要があるとされています。

おわりに

サルコペニアは老年学領域の疾患ですが、各種疾患と関連することが明らかになっているため、整形外科や老年内科だけではなく、内科、外科、栄養科、リハビリテーション科などが連携を取り、包括的に対策を行っていくことが重要です。
また、サルコペニアを予防するという観点では、医療機関だけでなく、自治体の特定健診・介護予防事業や高齢者施設、フィットネスクラブなどがサルコペニアの評価に関わることで、症状の早期発見が期待できます。

<引用・参考文献>


1) Rosenberg IH. Summary comments. Am J Clin Nutr, 50: 1231-3, 1989.
2) Morley JE et al. Sarcopenia. J Lab Clin Med, 137: 231-43, 2001.
3) Cruz-Jentoft AJ et al. Sarcopenia: European consensus on denition and diagnosis: report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing, 39: 412-23, 2010.
4) Sanada K et al. Association of sarcopenic obesity predicted by anthropometric measurements and 24-y all-cause mortality in elderly men: The Kuakini Honolulu Heart Program. Nutrition, 46: 97-102, 2018.
5) 植木浩二郎. 5. 高齢者糖尿病とサルコペニア. 糖尿病, 57: 689-92, 2014.
6) Bahat G et al. Sarcopenia and the cardiometabolic syndrome: a narrative review. Eur Geriatr Med, 7: 220-3, 2016.
7) 加藤明彦. 腎機能障害とサルコペニア・フレイル. Jpn J Rehabil Med, 57: 227-33, 2020. 
8) 西口修平他. 肝疾患におけるサルコペニアの判定基準(第1版). 肝臓, 57: 353-68, 2016.
9) Bone AE et al. Sarcopenia and frailty in chronic respiratory disease. Chron Respir Dis, 14: 85-99, 2017.
10) Yu R et al. Sarcopenia combined with FRAX probabilities improves fracture risk prediction in older Chinese men. J Am Med Dir Assoc,15: 918-23, 2014. 
11)  Harimoto N et al. Sarcopenia as a predictor of prognosis in patients following hepatectomy for hepatocellular carcinoma. Br J Surg, 100: 1523-30, 2013. 
12) Akune T et al. Incidence of certied need of care in the long-term care insurance system and its risk factors in the elderly of Japanese population-based cohorts: the ROAD study. Geriatr Gerontol Int, 14: 695-701, 2014.
13) Chen LK et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc, 21: 300-7.e2, 2020.
14) Yamada M et al. Synergistic effect of bodyweight resistance exercise and protein supplementation on skeletal muscle in sarcopenic or dynapenic older adults. Geriatr Gerontol Int, 19: 429-37, 2019
15) 安部孝他. サルコペニアを知る・測る・学ぶ・克服する. ナップ, 2013.
16) サルコペニア診療ガイドライン作成委員会. サルコペニア診療ガイドライン2017年版一部改訂. ライフサイエンス出版, 2020.
 

監修

真田 樹義先生
立命館大学 スポーツ健康科学部 教授
日本サルコペニア・フレイル学会理事

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