
2026.06.09

熱中症対策の必要性が高まる昨今。建設などの現場や学校・企業において「暑さ指数(WBGT)」に基づく熱中症対策が求められています。 タニタが展開する黒球式暑さ指数計は、正確な暑さ指数の測定を実現。JIS規格適合はもちろん、厳しい使用環境を想定したタニタ独自の耐久試験、製造工程内での全数検査など品質と測定精度にこだわったものとなっています。そこで開発の裏側を担当者に聞きました。
INDEX

株式会社タニタ 量産設計部 山谷 千秋
2008年入社。入社当初は睡眠計の開発をメインで担当。コンディションセンサーTC-400や黒球式暑さ指数計TC-300の開発に携わる。
アルゴリズムや推定式の開発、データ分析、アプリ開発など多岐にわたる分野を経験。現在はこれまでの知見を生かし、チームのマネジメントや後進の育成にも携わっている。

株式会社タニタ 量産設計部 小曽根 瑞希
2024年入社。大学・大学院では健康学および医科学を専攻し、生活習慣や環境因子がからだへ与える影響に関する統計データ解析に従事。
入社後は黒球式暑さ指数計や温湿度計の商品担当として、新商品の企画や仕様検討、データ解析などに携わっている。
――暑さ指数(WBGT)とはどのような指標か教えてください。
小曽根:
「暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標」(引用:環境省)です。①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、③気温-の3つの要素を取り入れた指標で、人が「実際に感じる暑さ」に近い形で環境の危険度を示すことができます。
熱中症は、気温が高い日にだけ起こるわけではありません。湿度が高い曇りの日や、輻射熱が強い環境でも発症リスクは高まります。だからこそ、気温だけでなく複数の要素を組み合わせた暑さ指数で評価することが大切なのです。
――市場には「黒球」のない熱中症計も多く出回っています。黒球式との違いを教えてください。
小曽根:
暑さ指数計という名前がついていても、すべての商品が屋外で正確に測定できるわけではありません。
市場に流通する黒球のない暑さ指数計は、温度と湿度のみで暑さ指数を推定したもので、あくまで輻射熱のない屋内環境での使用を想定しています。グラウンドや建設現場など、輻射熱が発生する屋外の環境では、黒球のない機器を持ち出しても実際の暑さ指数を正確に把握することはできません。
黒球式は輻射熱の影響を測定できるため、屋外はもちろん、室内も含めたあらゆる状況下で正確な暑さ指数を把握できます。
山谷:
教育現場では備品リストに「暑さ指数計」の記載はあるものの、「黒球付き」とは明記されておらず、黒球のない暑さ指数計を屋外に持ち出しているケースもあると聞いています。機器があっても、正確に測定できる商品を正しく使わなければ、熱中症対策の実効性には直結しません。
タニタの黒球式暑さ指数計は、屋内外や日陰などを自動で切り替えられる機能を搭載しているので環境を選ばずどこにでも設置することができます。
――JIS規格適合の商品は市場に多くありますが、タニタの商品が選ばれる理由はどこにあるのでしょうか。
山谷:
タニタの業務用黒球式暑さ指数計はすべてJIS B 7922:2023に適合しています。JIS規格は、直径150mmの黒球などを用いた国際規格(ISO)をベースに作成されたもので、これらと同等の測定ができるものであれば小型黒球の使用が認められている日本独自の規格です。タニタはこのJIS規格適合を出発点としながら、計測機器メーカーとしての「通則(社内基準)」に基づき、JISの要求基準よりも項目が多い独自基準による厳しい検査を行っています。
さらに、製造工程において製造したすべての商品の検査を行っています。品質に対して一切妥協しないこの姿勢が、タニタへの信頼につながっていると自負しています。
――屋外での長期使用が前提の商品として、耐久面について教えてください。
山谷:
TC-350は、JISでは求められていない独自の耐久試験も実施しています。紫外線によるきょう体劣化を確認する「耐候性試験」、潮風への耐久性を見る「塩水噴霧試験」のほか、粉じんが内部に侵入せず、全方位からの激しい噴流に耐えるIP66(防水・防じん試験)もクリアしています。
夏の屋外は、直射日光・湿気・潮風といった過酷な条件が重なる環境です。そうした現実に即した検証を重ねることで、現場で長く安心して使い続けていただける商品を目指しています。
小曽根:
屋外での実際の使用シーンを考えると、日なた・日陰の行き来や屋内外の移動も頻繁に起こります。これに対応するため、タニタの黒球式暑さ指数計には、屋内・屋外モードを自動で切り替える特許技術を搭載しています。他社商品の多くはボタンでの手動切り替えが必要ですが、自動切り替えにより、条件が変化する環境でも柔軟に対応し、常に正確な暑さ指数を表示できます。
――建設・土木の現場での導入も広がっています。
小曽根:
TT-562は、国土交通省が運営する新技術情報提供システム「NETIS」に登録済みの商品です。
建設・土木の現場でNETIS登録商品を導入することで、公共工事における施工業者の工事評定への加点対象となり、次の受注にも有利に働きます。この点も建設・土木の現場での導入を後押ししています。
――開発の苦労や印象に残っているエピソードを教えてください。
山谷:
精度に関する屋外試験は工数がかかる長丁場で、日焼け対策グッズを持ち寄りながら屋上やアスファルトの上で実地測定を繰り返すこともあります。泥臭い地道な仕事ですが、それがタニタらしい実直なものづくりだと思っています。
小曽根:
使用するセンサーや部品の選定、仕様の細かな詰め作業も一切妥協しません。安価な競合商品が増える中でも、コストより品質を優先するという姿勢が、開発チームの揺るぎない前提となっています。現場の安全、生命を守るための機器ですから。
――複数の部署が関わりながら、ひとつの商品にまとめていく。その中で開発の手応えを感じる瞬間はどんな時でしょうか。
山谷:
営業、企画、技術部門のそれぞれが異なる視点から意見を出し合い、議論を重ねていくのですが、ある瞬間にすべての意見がピタッと噛み合って「それ、いいね」とひとつの方向にまとまる瞬間があります。その熱い想いがあるからこそ、品質の高い商品が生まれると思っています。
――最後に、購入を検討されている方や現場でご使用の方へメッセージをお願いします。
小曽根:
タニタの商品は体重計や体組成計の普及で、ブランドへの親しみと信頼をもっていただいています。世の中には安価な暑さ指数計もありますが、「タニタだから」と信頼して買っていただいているお客様が多いです。だからこそ、妥協をせず仕様の検討や設計、試験を重ね、お客様の信頼に応える真摯なものづくりを続けていきたいと思っています。
山谷:
開発に携わった商品を現場で実際に使っていただけることが一番の喜びです。「使って良かった」「現場で助かった」という声を聞くと、苦労しながらも開発して本当に良かったと感じます。年々暑さが厳しくなる中、危険な暑さへの対処には正確な暑さ指数の測定が欠かせません。
仮に黒球のない機器を屋外に持ち出した場合、輻射熱の影響が数値に反映されず、実際より低い値が表示されることがあります。「まだ大丈夫」と判断して活動を続けた先に、思わぬ熱中症が起きる。そうした事態を防ぐためにも、正確に測れる商品を正しく使うことが熱中症対策の第一歩です。
現場で働くすべての方の安全を守るために、私たちは誠実なものづくりを続けていきます。
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