体組成計のしくみ - BIAとは?-

2022.10.27

体組成計を使って、より正確な体組成をはかるためには、体組成計の仕組みを理解することが大切です。このコラムでは、研究者、医療従事者などの専門家に向けて、体組成計の原理を解説します。

生体電気インピーダンス法・BIAとは?

体組成計は、生体電気インピーダンス法(BIA)を利用して体組成を推定する機器です。BIAでは「脂肪組織はほとんど電流が流れないが、水分と電解質を多く含む除脂肪組織は電流が流れやすい」という性質を利用します。具体的には、身体に微弱な電流を流して、その際の抵抗値であるインピーダンスを測定し、これと体重や身長などから、回帰式(アルゴリズム)を介して体組成を導き出す仕組みとなっています。

BIAの精度の鍵となるアルゴリズム

BIAにおけるアルゴリズムとは、多数の母集団のデータから得られたインピーダンスと体組成との関係性を式に表したものを指す言葉であり、統計学的手法である回帰分析によって作成されるため、回帰式とも呼ばれています。アルゴリズムは、BIAにおける推定精度に大きな影響を与えることから、製造企業や研究者によってさまざまな工夫がなされた式が開発されています。

アルゴリズムの基本

アルゴリズムは「インピーダンスインデックス」と呼ばれる変数が基本となっています。

まずBIAでは、人体を一つあるいは四肢と胴体の五つの均質な円筒の和と仮定します。身体の中で電気を通す組織である除脂肪組織(筋肉など)のインピーダンスは「円筒の長さに比例して断面積に反比例する」という特性があり、数式で表すと①となります。これを整理すると「体積は長さの二乗に比例してインピーダンスに反比例する」という式(②)に変換できます*1)。ここで長さに身長を用いた際の、身長の二乗/インピーダンス(Ht2/Z)が「インピーダンスインデックス」です(③)。


一例として、筋肉量はインピーダンスインデックスを用いて④のように表すことができます。ここで、式の傾き(k1)と切片(k2)を求めるために、母集団となるデータを用いた回帰分析などの統計学的手法が必要となります。また、推定精度を向上させるためには、妥当性および信頼性の高い多数のデータが必要で、インピーダンスインデックス以外の変数(性別や他の周波数のインピーダンス情報など)を追加することも効果的です*2,3)。
 

単周波数BIAと多周波数BIA

BIAには、1 種類の周波数の電流を流す単周波数BIA(Single-Frequency BIA: SF-BIA)と複数の電流を用いる多周波数BIA(Multi-Frequency BIA: MFBIA)があります。推定精度はMF-BIAの方が優れています。

単周波数BIA(SF-BIA)

総体水分量(Total Body Water: TBW)の推定には、細胞膜を透過できるのに十分な周波数であればよく*4)、また最も体組成の個人差を反映する周波数であることから、SF-BIAでは古くから50 kHzの電流が用いられています。

多周波数BIA(MF-BIA)

MF-BIAの中でも3種類以上の周波数の電流を用いるものは特に推定精度が優れており、これは50 kHzに加え、低周波数(5 kHz前後)と高周波数(250 kHz以上)を組み合わせて測定するものが一般的です。

交流電流は、周波数によって流れる経路が異なります。低周波数電流は細胞膜を通過できずに細胞外液のみに流れるため、細胞外液量(Extracellular Water: ECW)の推定に用いられます。対照的に、高周波数電流は細胞内外液の両方に流れるため、総体水分量(Total Body Water: TBW)の推定に適し、これらの差分から細胞内液量(Intracellular Water: ICW)を推定できます。このような特性を利用することで、細胞の内液と外液に分けて水分量を推定できるため、加齢に伴う筋肉の質の変化や浮腫による体組成の推定誤差を軽減することが可能となります*3)。

アルゴリズムの例-高い精度で四肢筋肉量を推定できるアルゴリズム

Yamadaら*3)によって開発された、四肢筋肉量を高い精度で推定可能なMF-BIAのアルゴリズムを紹介します。男性と女性は体組成や脂肪の分布が大きく異なるため、男女は別の式となっており、変数(①②③)は同じで、係数(数字の部分)が異なります。


「① Ht2/Z50」が50 kHzのインピーダンスインデックスです。「②Z250/Z5」は高周波数(250 kHz)と低周波数(5 kHz)のインピーダンスの比で、加齢に伴う筋肉の質の変化による誤差を軽減するための変数、「③1/Z50」50 kHzのインピーダンスの逆数で、浮腫による誤差を軽減するための変数です。


「① Ht2/Z50」のみを用いる場合では、年齢の項を考慮しなければ、高齢者の筋肉量を過大評価してしまうことが明らかになっています。この式では「②Z250/Z5」「③1/Z50」の変数を加えることで、筋肉量の過大評価を抑制し、若年者~高齢者まで、幅広い対象者の精度の高い推定を可能にしています。なお、タニタのマルチ周波数体組成計 MC-980A-N plus、MC-780A-N、MC-780MA-Nでは、この式を搭載しています。

おわりに

体組成計は身体の組成を直接はかるものではなく、測定したインピーダンスを基にアルゴリズムを介して体組成を推定する機器です。そのため「アルゴリズム」は、体組成計の精度を決める重要な要素であり、タニタでは、より正確に体組成を推定するために、この開発に力を注いでいます。また、コラム「 体組成を正確にはかるために気を付けたいこと」では、実際に体組成計を使って計測する際に、気を付けるべきポイントを詳しく解説していますので、是非ご確認ください。

<引用・参考文献>

1) Hoffer EC et al. Correlation of whole-body impedance with total body water. J Appl Physiol, 27: 531-4, 1969.
2) Bosy-Westphal A et al. What makes a BIA equation unique? Validity of eight-electrode multifrequency BIA to estimate body composition in a healthy adult population. Eur J Clin Nutr, 67: S14-21, 2013.
3) Yamada Y et al. Developing and validating an age-Independent equation using multi-frequency bioelectrical impedance analysis for estimation of appendicular skeletal muscle mass and establishing a cutoff for sarcopenia. Int J Environ Res Public Health, 14: 809, 2017.
4) 阪本要一他. 体脂肪量の測定法 電気伝導度法, インピーダンス法. 日臨, 61: 368-73, 2003.

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